Interview on “hep” magazine



韓国のhep magazineからインタビューを受けました。

hep“は毎号、音楽のタイトルをテーマに編集されており、今号のテーマはBrian Enoの “By this river”です。

インタビューの日本語訳をhepの許可を得て以下に掲載します。

I’m glad to be interviewed by Korean magazine “hep“.

“hep” is a film photography magazine published twice a year with the slogan “our past and present in film photography”.

“hep” choose a song for an issue title and set the mood of the whole contents. This issue is devoted to “By this river” by Brian Eno.
The interview is shown below, but Japanese only.

 

岩村さん、こんにちは。今回インタビューを担当します hepマガジン、Pilwooと申します。まず、簡単に自己紹介をしていただけませんか?

A.
こんにちは。
自己紹介はあまり慣れていません。こういう時は何から話したらいいんでしょう。
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ええっと。東京に住んでいます。新潟という港町で生まれました。
作曲家でピアニストです。音楽とは関係ない仕事をしながら創作活動を続けています。

これまで Sunday ImpressionMonday ImpressionReading to Hearという3枚のピアノアルバムと、初期作品にストリングスアレンジなどを加えたTokyo Reminderというアルバムをリリースしました。間もなく、都市のノイズを楽曲制作の糸口にした”City”という新作をリリースする予定です。

YoutubeSoundcloudにも私の作品をアップしていますが、韓国からのアクセスがとても多い事に驚いているとともに、嬉しく思っています。こうして韓国のマガジンのインタビューを受けているのも不思議な気持ちです。

どうして私の事を知っているんでしょう?(笑)。

よろしくお願いします。

 

平凡な質問かもしれませんが、、1番気になる質問から始めたいと思います。ピアノを弾き始めたきっかけは何でしょうか?

A.
私が生まれた家に、古いアップライトピアノがあったので、物心がついた頃からそれを弾き始めました。
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3歳くらいから、ピアノの前に置かれた丸椅子によじ登って弾いていました。
ポンポンと人差し指で鍵盤を叩いたり、和音らしきものを奏でると、心が反応してふわふわといろんな方向に動いていく感覚が面白かったのだと思います。それは今でも変わりません。

うーん。質問の答えになっていませんよね。。

だけど「きっかけ」と言われるとちょっと困ってしまうのです。自然にピアノに興味が向いた、としか言いようがないので。

身体の機能がある程度発達すると、子供は「遊び」を始めますが、ある子はボール遊びを、またある子は人形遊びをするように、私はピアノと戯れる事を始め、そしてその先それを止める事ありませんでした。

人間が生まれ、何かを興味の対象として持ち、それに執着する理由は、なかなか説明がつかないものです。人間は何か方向性を持って生まれてくるのではないでしょうか。

 

個人的な感想ですが、’Sunday Impression’, ‘Monday Impression’, ‘Reading to hear’ などアルバムの中のピアノの演奏を聴いていると、まるで音楽が僕の空間を包んでくれるような気分になります。このアルバムに込めようとした意図は何でしょうか?

A.
ある年の日曜日と月曜日に、まるで習慣的に日記をつけるように、毎週小さなピアノ曲を書きました。その結果、合計24曲のSunday ImpressionMonday Impressionという2つのピアノ曲集が生まれました。
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少しだけ音楽理論の話をします。

24とは平均律の全ての調の数です。ピアノには1オクターブに12個の鍵盤がありますが、各調には長調とその平行調の短調があるので×2で、24という数になります。

作曲にあたり、この平均律に基づいたルールを決めました。

毎週半音ずつ調を上げて曲を書く事、Monday ImpressionはSunday Impressionの平行調を使って書く事、です。音楽の性質は全く異なりますが、このプロセスはバッハの平均律クラヴィーア曲集から着想を得ました。

ちょっと難しかったですか?

個々の曲は、ある音楽家へのオマージュだったり、ある楽曲形式に沿って作った音楽だったり、ガムランや沖縄民謡、90年代のクラブミュージックを参考にしたり、色々です。

組曲には”Sunday/Monday Impression” というタイトル(標題)がついていますが、その日の情緒に任せて、即興的に生まれた音楽というわけではなく、計画され、設計された音楽です。

各曲のタイトルは“February 20 / C-dur” といったように、作曲した日付けと調の名前だけです。

具体的な標題をつけて、聴き手のイメージが限定される事がないよう、そうしました。

曲のタイトル(標題)から意味を削ぎ取る事で、聴き手は具体的な「何か」を音楽からイメージする手段を失います。私はこの曲集を「音楽のための音楽」にしたいと考えたのです。

「愛」や「離別」や「森」や「海」ではなく、「音楽」しか表現していない音楽です。

が、この曲集を聴いて、皆さんが何かをイメージしていただく事は大歓迎です。それが「愛」や「離別」や「森」や「海」だったとしても、です。

ただ、作家から聴き手のイメージの可能性を狭めたりするような「手がかり」を、この曲集では与えるべきではないと考えました。

“空間を包んでくれるような音楽”と仰いましたが、そのイメージは正解です(不正解などないのです)。

でも、例えば、そうお感じになったその曲のタイトルが“Like Air”だったとしたら、ちょっと興ざめしませんか(笑)。

Reading to hear”も、曲のタイトルは「231.1」など、一見無意味な数字の並びです。これはあるルールに基づいた書籍の分類番号なのですが、その番号が何を意味するのかは、やはり聴き手のイメージの限定を避ける、という理由から、私からは言いたくないのです。

 

作曲する時、インスピレーションはどこから得ますか?

A.
海外の方から「日本的な作品ですね」と言われる事があります。
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その人がどういう意味や範疇で「日本的」という言葉を使ったのか分かりませんが、あまりそういう事を意識して音楽を書いた事はありません。

能や歌舞伎や文楽を見に行った事はあります。が、まぁその程度で、茶道や華道についても、私の知識はごくごく狭い範囲に限られています。

私はそういう日本の伝統的なハイカルチャーに親しく接するような生活をしてきませんでした。

なので「あなたの音楽は”わび・さび”、ですね」などと言われると、ちょっと身構えてしまいます。

もし、私の音楽が日本というものから霊感を得ているなら、それはもっと小さな、「私の生活」の範囲からでしょう。

電車に乗って職場に行くまでの、車窓から見える街並みとか、空の色や雲の動き、郊外が終わり、電車が都心の地下に潜り込む瞬間、とか、
その日会話をした人の服装や、話した内容、その人の視線の動き、とか。

日本の東京という街の、私の毎日の生活の積み重ねから、音楽は生まれているのかもしれません。

また、日本はあなたの国と同じように、季節によって大きく天候が変わります。
その四季の移ろいを感じたりするのも、音楽を作るインスピレーションのひとつになっているかもしれません。

だけど正直なところ良く分かりません。

ただ、雷に打たれたような啓示を受けて、とか、心が何者かに導かれるよう動いて、とか、そういったスピリチュアルなものの存在を理由に、創作をした事は一度もありません。

基本的にそういうものを信じてはいません。

 

アルバムを聴いていると、岩村さんがピアノを弾いている姿が想像つきます。実際にライブなどでも音楽を感じてみたいのですが、ライブはされていますか?

A.
ライブ活動は積極的には行なっていません。
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私の性格はどちらかと言えば内気ですし、ステージで何か目を引くパフォーマンスをする訳でもなく、容姿も取り立ててライブ向きではないでしょう(笑)。

が、一度だけステージに立った事があります。
それは2年前の台北で行われたP.Festivalでした。P.Festivalは、主催者がコンセプトを決め、それに沿ったピアニストや音楽家を世界各地から招いて行われるライブイベントです。

その年のコンセプトは中国語で「世界的碎片」(=世界の欠けら)で、”A Winged Victory for the Sullen”や”Lubomyr Melnyk”、”Peter Broderick”などが参加していました。

出演者の音楽のスタイルや、ライブパフォーマンスは様々でしたが、彼らは正にコンセプトの「世界的碎片」の意味する、世界の断片、欠けら、端、辺境に立つ音楽家達だったと思います。

私はこのようなイベントを企画する、優れた編集能力のある主催者たちに会ってみたいと思いました。

そして彼らのオファーから感じられる真剣さには、真摯に応えるべきだと思いました。
実際にいいステージができたのではないかと思っています。

パッケージの中やインターネット上にだけ存在する、という音楽と人物のあり方も、私は好きです。

が、この先、もしいい機会をいただけたら、またステージに立ちたいと思っています。

 

ピアノの前と、日常の岩村さんは違いますか?
例えば敏感の程度や、自分に対する冷静さや、寛容の差などありますか?

A.
一日の長い時間を職場で過ごしています。

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殆どの仕事がそうだと思いますが、職場では「効率」や「能率」、「成果」という事が一番に謳われ、秩序立った、ある意味残酷な時間が流れ、私もその中で、極々ささやかな役割を果たします。

一方、仕事を終え、家に帰ってピアノに向かって創作をしたり、ある作家の作品の演奏に没頭してしている時、私の中では、効率や成果という、実社会で重要であると言われているものが全く意味を成さない、混沌とした時間が流れています。(仕事として作曲を引き受けた場合はまた話が違ってきますが…)。

さっきまで仕事をしていたもう一方の世界から見たら、そこは無価値で、意味の無い世界です。

私はどちらか一方の世界の時間の流れが正しい、という気はさらさらありません。

効率や成果が問われる時間も、それが全く無価値となる時間も、両方の時間が「そこそこ」大事だと思っています。
私は両方の時間を行き来してバランスを取っているのだと思います。

これまでいくつかの仕事を経験しましたが、自分が優れたビジネスマンには決して成れない事を、したたか思い知っています。なので意識的にこの二つの時間を行き来する事は、自分の精神の健康を保つのにとても有効です。

願わくば、いつか片方の世界だけに留まってみたい気もするのですが、効率や経済だけが至上とされる世界が恐ろしいように、その逆の世界に留まることも、それはそれで恐ろしい事なのかもしれません。
あれ、これ、答えになっていますか?(笑)。

 

作業をしている以外の時間はどんな風に過ごされていますか?

A.
平日は職場で過ごしているので、それ以外の事をする時間は、平日の夜と休日だけに残されています。
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その時こそ、創作の時間なので、作曲をしたり、これ以上ピアノが下手にならないように、練習をしたりしています。

ピアノに向かっていなくても、家にある玩具やガラクタをひっくり返して音の組み合わせを試したり、マイクを持ってフィールドレコーディングに出かけたり、音楽についての調べものをしたり、やはり音楽に関連した事をしている時間が長いです。

音楽が趣味ではないとすると、私は無趣味でつまらない人だな、と思います。

音楽をしている以外の時間、ですか、、そうですねぇ、近所に大きな書店があるので、散歩がてらその中を巡回して時間を潰したりしています。本が好きなので。

それから年に何回か旅行をします。一人旅です。必要最低限の小さな荷物で出かけます。観光地を巡る訳ではなく、初めて訪れる街で地元の人のふりをして、商店街の小さな中華屋でラーメンなんかすすっています。
知らない街で、私ではない誰かを演じているような気持ちになって面白いです。

あとは、、 普通にテレビも見ます。
「ミセン(미생)」は面白かったですよ。

 

アルバムの音楽とカバーアートが凄く一致していますね。ジャケットのデザインについてもご説明いただけますか?

A.
ノリタケさんの描く人物は、私の作品のジャケットのイラストもそうですが、顔の特徴や余剰な表現が削ぎとられた、匿名性の高い”誰でもない”人物だと思います。
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誰でもない、という事は、あなたにも、私にも、誰にでもなり得ますよね。(ノリタケさんとそういう話をした事はないので、それは私の勝手な思い込みかもしれません)

さきほど、Sunday/Monday Impressionが「音楽を表現した音楽」である、と言いましたが、それは、聴き手にとっては、イメージを限定せず、そこから何を想起してもよい音楽、という事です。

それは、誰でもない誰か(=誰にでもなりうる誰か)、というイラストのあり方と、とても似ている気がします。

ジャケットのアートワークとそこに収められた音楽の一貫性が素晴らしい、とよく言われます。

私からは、Sunday/Monday Impressionがそういう音楽だ、という事をお伝えした事はないのですが、ノリタケさんは感じ取ってくれたのだと思います。

 

WEB上でもたくさんの岩村さんの音楽が聴けますが、代表的な曲を教えてください。

A.
Avec Mon Joujou”と名付けた、トイミュージックの演奏風景をYoutubeにアップしています。シリーズ化していて、今のところ13曲あります。
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他に適当な言葉がないので便宜的に「トイミュージック」と言いましたが、メルヘンやカワイイ世界を表現したかった訳ではなく、子供に向けて書いた音楽でもありません。実験音楽です。

そこでは玩具楽器の他、楽音以外の音=鳥の鳴き声やラジオのホワイトノイズ、電卓を叩く音、足踏みの音、砂時計の砂が落ちる音、自宅の窓を開けると飛び込んでくる幹線道路の騒音、などを使っています。

世界のあらゆる音が美しい、などと言うのは、あまりにセンチメンタルすぎますが、私はこのシリーズで、音の「美しさ」という概念を、ちょっと疑ってみよう、と思いました。

絶対的に「美しい音」「正しい音」などあるのでしょうか?
ストラディバリウスやベーゼンドルファーなどとは比べるべくもない、チープな素材でできた楽器の音や、生活騒音の中にも存在する音の「美しさ」に、注目していただけたら嬉しいです。

あとは”Staring(見つめる)”というシリーズがあります。

視覚と聴覚の相互作用をテーマにしています、、、と言うと難しそうですが、私が撮影した映像に音楽をつけた、というだけです(笑)。

Staringの映像=プールの水面で乱反射する光や、解き放たれた風船が空を昇っていく様子、入道雲が夕焼けの空を墨色に染めて行く様、などは、全て私のiPhoneで撮影したものです。

それに付けた音楽は、影像の動きと連動を感じさせるものだったり、全く無関係なものだったり、色々なパターンを試しています。

何気ない光景を見つめ(stare)ながら、音楽を聴いたり、脳内で再生させた時に、心が揺れ動いた経験はありませんか?

映像作品のBGMとは、概してそういう効果を生むもので、それは新しい発見でもなんでもないのですが、私はこの映像と音楽の連携が心に与える作用を、とても面白いと思っていて、このシリーズを続けています。

 

これから進めてみたいプロジェクトや、これからの計画について教えてください。

A.
間もなく”City”というアルバムをリリースします。
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もっと早く出す予定だったのですが、思いのほか調整事項があって時間がかかってしまいました。

私は旅に出るとき、必ずハンディレコーダーを持って行きます。それを使って録音した、ニューヨークやシカゴ、リスボン、台北などの都市のノイズと音楽とをコラージュした作品集です。ソウルという曲もあります。

元々Soundcloudで連載していたのですが、再編集とマスタリングをして、新しい曲も加えてリリースします。韓国でもフィジカル版の流通ができたらいいですね。

それと、いつか映画音楽の仕事ができたら、と思っています。

あとは、音楽の事をもっと勉強したいですね。
私は音楽の専門教育を受けておらず、あまりにも色々な事が我流で独特です。
そこがあなたのいい所だ、と言ってくれる人もいるのですが、私はあまり誇れる事ではないと思っています。

勉強だけではなく、興味のある作曲家や、特定の地域の音楽を、深く掘り下げて調べてみるのも面白いかもしれません。

いつかそんな時間が持てるといいのですが。

 

岩村竜太

hep

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