Episodes of “CITY”



CITY」は2019年リリースの、都市のノイズと音楽とをコラージュしたアルバムです。

このたび、STOMP MUSICとのライセンス契約により、韓国の主要音楽配信サイトでリリースされました。

リリースにあたりBUGS MUSIC内の特設ページで、各楽曲や録音に関するエピソードを掲載しています。
→ BUGS MUSIC

以下に日本語版を転載します。

収録曲のうち「New York」「Chicago」「Rio」「Amsterdam」「Lisbon」「Seoul」「Taipei」にまつわる余話です。

Spotifyのサンプル音源とともに、よろしければどうぞ。

 


1.New York

2010年、夏。

ピッツバーグで”Tokyo Reminder”の録音を終えてニューヨークへ。

一度こちらに来て録音をしてみませんか?

インターネットで私の音楽を知ったアメリカ人のフィルムプロデューサー、Todd氏から誘われたのは半年前。
彼は23歳の若さで命を絶ったJoy Divisionのボーカリスト、Ian Curtisの生涯を描いた映画“Control” のプロデューサーだ。

東京で会食した時、彼は私がアメリカに行ったことがない事を知ると、「どんなイメージがありますか。アメリカに?」と聞いた。

「様々な民族的、文化的背景を持った人々が集まっている国」。
模範解答であろう。

が、咄嗟には英語が出ない。頭の中で単語を組み立てながら、時間稼ぎに「White people, Black people…Hispanic, Asian…Indian…..」と人種の名前をモゴモゴ呟いてみる。

「あぁ、”Melting Pot”のことを言っていますか?」。

Melting Pot =人種のるつぼ。

中学校の地理の教科書に、「人種のるつぼ、アメリカ」とキャプションのついた「アメリカ」を象徴する1枚のモノクロ写真が載っていた。

信号待ちのイエローキャブの車列を背景に、タイムズスクエアを行き交う人々が写っている。

「White people, Black people…Hispanic, Asian…Indian…..」

私は今、タイムズスクエアを歩きながら、マイクのスイッチを入れ、「人種のるつぼ、アメリカ」の奏でる音を拾っている。

 


2.Chicago

ピッツバーグでのレコーディングの前々日に東京からシカゴに到着。

中心街から離れたグリークタウン(ギリシア人街)のホテルから地下鉄に乗り、シカゴのダウンタウン、ループエリアへ。
摩天楼。全てが巨大だ。

レコーダーを片手に彷徨っていると、ビルの解体工事現場に出くわす。

解体の最終工程なのだろう。数人の労働者が、1階の壁、床、天井など、様々なところをドリルを使って破壊している。

2階から上の解体は全て終わっていて、元々どれくらいの大きさのビルだったのかは分からないが、敷地の面積から想像すると、かなり巨大な高層ビルだったのだろう。

一見不変に見えるものにも終わりは来る。

死と再生(魂の、という意味ではない)。破壊と創造(建設)。

人工物も自然も同じ定めだ。

ドリルがコンクリートを穿つ音は絶え間なく響いてる。

夏の昼下がり、単調な空気の振動を体に受け続けていると、だんだん心地よく、眠たくなってくる。

この街を象徴する音ではないのだが、気に入ったので記録しておくことにする。

 


3.Rio

ピアノ曲。
アントニオ・カルロスジョビンへのオマージュ。

多くのマニアや研究者に比べたら、私の彼の音楽に対する知識はごく僅かだ。が、私は彼の音楽にボサノバ、というかポップミュージックの「技巧」の理想を見ている。

シンプルな音楽を装っているが、旋律を支える和声はどれも複雑で凝っていて、音楽は何度も何度も転調を繰り返して進んで行く。
その音楽構造の複雑さ、斬新さにも関わらず、聴き手はその音楽を自然に受け入れ、いつの間にかその深く美しい音楽体験の中に、身を委ねている。

こういう音楽を書いてみたい。

へ長調のシンプルなメロディから始めてみる。
時々意外性のある和音の配置を試みよう。何度か気づかれないように転調して、遠い調まで行ってみよう。そして「帰り道」を見つけて、またへ長調へと戻ってこよう。

うまく行くだろうか。

 


4.Tokyo

 

 


5.Amsterdam

スキポール空港。

経由地。束の間の滞在。

大きな空港の出発便の電光掲示板を眺めるのが好きだ。
キエフ、ブレーメン、ポルト、エンデべ、ラゴス、クラクフ、ルアンダ、セント・マーチン…..

東京の空港では見ることのない行先の都市。

皆、どんな用事があって、誰に会いに行くのだろう。

どんな街なんだろう。

そこに暮らす人々にはどんな喜びや悲しみがあるんだろう。

 


6.Lisbon (in the sun)

インターネットを介して知り合った、リスボンに住むコントラバス奏者、ミゲールに会いに行く旅。

乗り継ぎを含めて東京から20時間近く、深夜にリスボンに到着。
ホテルで泥のように眠る。

翌朝、朦朧とした頭でラジオのスイッチを入れると、なんの番組かは知らないが、ポルトガル語の男女の会話が耳に流れ込んでくる。
もちろん何を言っているは分からない。言葉が意味を結ばない。ただ「響き」だけ。

会話は止めどなく続いていく。時々、女性の男性を軽く諌めるような、笑い方がいい。好きだ。
録音しておこう。リスボンで最初の音の採取。

この先、録音した音はメモしておくことにする(以下、メモから)。

・リスボンメトロ「かもめ線」地下鉄のサイン音、アナウンス。
・学校帰りの子供たちのはしゃぎ声。(リスボン大学 植物園近く)。
・フェリー乗り場。テージョ川の川波。
・街路樹の下でよく聞く鳥の鳴き声。ピピーピピピピ(←アクセント記号と共に)。姿は見えない。
・窓辺の鳥籠にカナリア。
・アルファマ地区の路地。石畳にの階段を歩く足音。コツコツ。
・路面電車。15系統の車内。
・ケーブルカー。ビッカ線の車内。
・遠くから聞こえる教会の鐘の音(サン・ジョルジェ城にて)
etc…

東京に帰り、これらの音をコラージュしたピアノ曲を作ってミゲールに送る。

「ありがとう。岩村。これまで自分がこういう美しいものに囲まれて生活していた事に、全く気がつかなかった」

気に入ってくれてよかった。
「日常」とは、どうやらそういうもののようだよ。ミゲール。

 


7.Lisbon (in the shade)

 

 


8.Seoul

サンプリングした音は、仁寺洞の骨董品店で見つけた銅の風鈴。大きいのと小さいの。大きい方は20センチ近い大きさがあり、「鐘」と言った方が適当か。

大きい鐘には、琴と笙のような楽器を演奏している仏教の神様?の姿が、小さい方には龍の装飾が施されている。

風板も銅でできていて、魚の形をしている。そのデザイン、表情が可愛らしい。

2つで50,000ウォンもしなかったので、美術的、骨董的価値は全くないのだろう。

思わずこの鐘を手に取ったのは、どこかでこの「魚の鐘」を見た事があり、その音を聴いたことがある、と思ったからだ。

確かキム・ギドク監督の映画「春夏秋冬そして春」だったと思う。

山奥の湖に浮かぶ寺の軒先で、この鐘がカラン、コロンと鳴っていたような記憶がある。

二つの鐘を同時に鳴らすと、長三度に似た響きが生まれる。その2つの音のうねりに耳を傾けていると、気持ちが静かになってくる。

私は静かになりたかったのだ。

昨夜、東大門のDOOTAで、同行者の洋服やらコスメやらの買い物に真夜中まで付き合わされ、私はほとほと疲れていた。
今日はアックジョンのハイブランドのブティックを冷やかしに行こうと誘われるが、「勘弁してください」と別行動を願い出た。

ソウルは初めてで土地勘は全くない。
「仁寺洞。たくさんの骨董品店、伝統工芸店が並び、文化的で落ち着いた街です」。

ガイドブックの、この「落ち着いた街です」の一文にすがって、逃げるようにここにやって来た。

 


9.Taipei

9月、ピアノフェスティバル(P.festival)に参加するために台北に来た。

空港からホテルまで案内してくれたスタッフの青年が、別れ際に「これ、記念にどうぞ」と、蔡英文総統の写真が大きくプリントされた、コーリャン酒の翡翠色のボトルをくれる。

この年の5月、民進党の蔡英文氏が国民党の候補に圧勝して、台湾初の女性総統に就任したのだった。

チェックインを済ませると、先ほど降りたばかりのMRT(地下鉄)の駅にマイクを持って戻る。公館(Gongguan)という名の駅だったと記憶している。
さっき駆け足で通り過ぎた時に聴いた、駅構内の音の響きが、何か気になっていた。

駅の柱にもたれてしばらく観察する。

自動改札のタッチ音。
「ポン」と一音だけ、ピアノに似た中音域の音が鳴る場合と、「ポロロン、ポンポン」という高音の電子音が響く場合の2つのパターンがあるようだ。
タッチするカードやトークンの種類によるものなのか、暫く観察しても、この音の出し分けがどういう理由によるものかは分からなかった。
そこに加えて「ピーピーピー」という警告音が時折鳴る。

この3種類の音が、改札の中の人々の流れに合わせて、短い間隔で続いたり、次の音まで少し間が空いたり、時には一度に鳴り響いて、音の層を作り出す事もある。

さらに、「バタバタン」という自動改札の開閉音。自動放送の女性のアナウンス、人々の話し声、靴音、スーツケースのキャスター音。

目を閉じると、それらの音が相まって、やがて音楽「のようなもの」が聴こえてくる。

 


10.Around Tokyo

 

 


11.Somewhere

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